“もう一度ベートーヴェン2008 ピアノセミナー”が5月25日(日)14時00分より函館市芸術ホールリハーサル室にて開催されました。
5月25日(日)、午後2時より函館市芸術ホールリハーサル室で開催されたピアノセミナーは、講師ジョン・カミツカ氏の3時間半に及ぶ熱気溢れたご指導のもと、会員の素晴らしい演奏に支えられ、受講者60名を最期まで釘付けにした充実感一杯の会となりました。
このセミナーの準備にあたり、カミツカ氏のご希望により13日(火)、14日(水)の両日、函館市公民館で、お1人1時間ずつの事前の演奏打合せ会を行いました。この打合せ会を企画するに際し氏は、無償であることを強く希望され、我々もそのご好意に甘えさせて頂くこととなりました。
では演奏された会員をご紹介しましょう。
ソナタ第1番は、阿部香緒会員、畑中佳子会員が演奏されました。両会員は、2004年のセミナーでも、バッハの演奏をなさいました。カミツカ氏のご信頼を得ての両会員の演奏は、初期のソナタにふさわしい実に溌剌としたものでした。
「エロイカ変奏曲」は、武井佳子会員、板本有加会員、安田幸恵会員、山本朋子会員、久保悦子会員、阿部いくこ会員6名が演奏されました。武井会員には、担当幹事としてもご協力を頂き深く御礼申し上げます。新会員の板本会員、寿都にお住いの安田会員、ベテランの山本会員、2004年のセミナー以来、カミツカ氏の絶大なるご信頼を得ている久保会員、そしてカミツカ氏から「フーガは阿部さんに是非お願いしてほしい」と直々に依頼のあった阿部いくこ会員、どなたもこの難曲を見事に演奏されました。
ソナタ31番は、深澤美奈会員、石田雅代会員の演奏によるものでした。札幌にお住まいの深澤会員は、17日(土)、札幌で事前の打合せを受けてくださり、24日に来函されてセミナーに臨まれました。やはりカミツカ氏のご信頼を得ている石田会員の演奏は、最後を飾るにふさわしいものでした。
この場をお借りしまして、演奏された会員の皆様に心より御礼を申し上げます。
講師のジョン・カミツカ氏は、現在お住まいの母国アメリカ・ニューヨークでは「知性と情熱のピアニスト」、別宅のあるイタリア・ローマでは「マエストロ」とのニックネームで広く両国民に親しまれております。ご両親が北星学園の教授をされていた幼少時、札幌にお住いだったそうで、その頃ピアノを始められ、その後、東京の桐朋学園の「子どものための音楽教室」などを経て、ニューヨークに戻られました。前日24日(土)の氏のリサイタルでの、市川須磨子会長、三浦浩平会員によるマリンバとのアンサンブルでは、バッハ音楽への造詣の深さを示すと共に、アンサンブルの醍醐味を見事に表現され、まだ感動の余韻が残っているところです。翌日のセミナーでは、その類稀なる才能を存分に発揮され、あたかもベートーヴェンのかたわらで生きておられたかのような錯覚すら覚えるほど、説得力のあるお話や演奏をされました。セミナーの最後に、ベートーヴェンが音楽を通して伝えようとしたことを、氏は「音楽は、心から、宇宙を感じて、愛を感じて・・」と決して流暢ではない日本語で必死に代弁され、60名の受講者の心を強く打ちました。
今回のセミナーが充実したものになった要因の一つに、布施谷信子評議員が書かれたプログラムノートの存在が上げられると思います。受講者は、プログラムノートを手引に、お話と演奏に集中することが出来ました。時間をかけて丁寧に作成していただいたプログラムノートに、カミツカ氏も大変感動され、「よい演奏には、正しい知識が不可欠」と、布施谷先生に感謝の意を表されました。
私達は、2004年の~もう一度バッハ~と、今回のセミナーで、氏の、真摯に、あくまでも謙虚に、そして情熱を持って音楽と向き合う姿勢を通して、多くの事を学ぶことが出来ました。そして改めて函館音楽協会の会則を紐解いてみますと、第2条に、「本会は、函館市の音楽文化の振興を図り、その向上を期待すると共に会員相互の親睦を計ることを目的とする。」と謳われております。
このセミナーを通して、会員相互の親睦と理解がさらに深まったことを強く感じるとともに、音楽の持つ強い力を再確認しつつ、それを次世代へ継承する責任を改めて感じました。今後もこのような企画を継続していくことが、函館音楽協会の使命であると強く感じるところです。
ジョン・カミツカ先生のセミナーには以前から興味があって、是非一度受けてみたいと思っていました。でも、地方在住の私は、まとまった日数が必要なためになかなか都合がつかず、函館との距離を恨めしく感じていました。今回も、仕事やプライベートの日程の調整が取れるか不安で少し迷いましたが、思いきって参加する決心をしました。
私の担当した曲は、ピアノソナタ第31番Op.110 第1・2楽章…大曲です。「どうして引き受けてしまったのだろう!?」担当幹事の吉田淳子さんの上手な説得に、ついその気になり引き受けてしまった事を、本番が近くなればなるほど後悔しました。
私は札幌近郊に住んでいるため、カミツカ先生との打ち合わせも札幌で行いました。打ち合わせ当日、とても緊張して会場に入ると、迎えて下さったのは、にこにこして飾らない笑顔のカミツカ先生でした。一通り演奏を終えると、師事した先生の名前を尋ねられ、そこで以外にもカミツカ先生が以前同じ師に学んだことがわかり、今は亡き師を思い出し、とても懐かしくなりました。打ち合わせでは、素晴らしいアドバイスをたくさん頂き、とても勉強になりましたし、大変な曲に取り組んでいるのだという実感を新たにしました。
本番当日は雨で、参加して下さる方々の人数が減るのではと心配でしたが、席を補充しなければならない程の盛況で、カミツカ先生のセミナーが素晴らしい足跡を重ねて来た事をあらためて感じました。
そして緊張の中、セミナーが始まりました。ずっと以前に、『演奏とお話』形式の講座を経験していた私は、「演奏者も全員、最初から会場入りしてセミナーを聴いて欲しい」というカミツカ先生のご希望に、「後半に弾く人は、緊張と疲れで演奏がボロボロになるのでは…」と危惧していましたが、セミナーは公開レッスンの形式で行われ、時折ユーモアを交えた表情豊かな楽しいレッスンに、いつの間にか自分が弾くことも忘れ、引き込まれてしまいました。
自分の番になり弾き始めると、先生は私の傍で歌ったり話したりしながら音楽を導いて下さいました。カミツカ先生のベ-トーヴェンにはとても自然な素直さがあり、それが個性的で幅広く奥行きのある、ベートーヴェンらしいスケールの大きさを感じさせる演奏に繋がるのだと思います。弾きながらふと客席に耳を傾けると、じっと息を潜めて熱心に聴いて下さっているのがわかりました。演奏前に客席を見た時、小学生の姿も何人か見受けられました。この難しい後期のソナタを飽きずに聴いていただけたのは、カミツカ先生の導きのおかげです。本当に良い音楽は、年齢を超えて受け入れられるのだと思い出す事ができた瞬間でした。
若きベートーヴェンの作品から、晩年のソナタまで、まるでベートーヴェンの一生のドラマを見たような感動的なセミナーで、終わってみると、あっと言う間の何時間かでした。これからも、このようなセミナーがありましたら、是非また参加させていただきたいと思います。
また、ベートーヴェンを通して、音楽の素晴らしさを教えてくださったカミツカ先生、そしてお忙しい中準備やお手伝いをして下さった先生方に、心から感謝申し上げます。
■日時/2008年5月25日(日) 開場13:30 開演14:00
■会場/函館市芸術ホール リハーサル室(フリールーム)
■講師/ジョン・カミツカ
■演奏者/
ソナタ 第1番:阿部香緒、畑中佳子
エロイカ変奏曲:武井佳子、板本有加、安田幸恵、山本朋子、久保悦子、阿部いくこ
ソナタ 第31番:深澤美奈、石田雅代
■受講料/一般1,000円、学生(大学生以下)800円
■主催/函館音楽協会